研究成果を実践に活かす:日本の看護分野の歴史をたどる(1989-2016)

「研究成果を実践に活かす」という考え方は、今はEvidence-based Medicineの流れを汲んで、Implementation Sciece、Shared Decision Makingとつながっています. 

EBMが登場する以前は、とくに看護分野ではresearch utilization(研究成果の活用)の考え方で論じられてきていたように思います.

そこで、現在に至るまでにどのような研究がなされていたのか、直近5年間を除いた2016年までの文献で辿ってみたいと思います.

※なお、この記事に掲載している文献は、網羅的ではなく、当サイト管理人の主観に基づいて取捨選択したものです.


History 1989-2016

1989年
  • 雑誌「看護研究」にて”Issues and possibilities of evaluation research for nursing. 6. Research utilization: will it change practice?”というタイトルで、research utilizationについて紹介される(Holzemer. 1989).


1996年
  • 望月(1996)による「臨床看護実践における研究成果活用に関する研究 研究成果活用と看護婦の特性に焦点をあてて」が発表される.2000年代前半の文献でよく引用されている.


2000年
  • Quality Nursingにて、舟島・望月(2000)による「看護実践における研究成果活用の現状と課題.」という記事が発表される.


2002-2004年
  • 2002年から診療ガイドラインデータベース構築が開始され(厚生労働科学研究費補助金事業)、2004年~診療ガイドラインのウェブ公開が始まる(https://minds.jcqhc.or.jp/s/about_us_overview).


2003-2004年
  • 日本看護教育学学会 第13回学術集会にて「看護実践場面における看護師の研究成果活用経験に関する研究」(野本,2003a)が発表された. 同発表者にて、シンポジウム「看護における研究成果活用と専門職性の確立」において、「 研究成果を活用できる看護職者の育成 看護基礎教育における「看護学研究」の教育」の演題にて、研究の概要などが紹介された(野本, 2003b).
  • 日本看護教育学研究にて「看護実践場面における研究成果活用の概念化 病院に就業する看護師の経験を通して」が発表された (野本ら, 2004).


  • 清村ら(2003)による BARRIERS Scale日本語訳の信頼性・妥当性の論文が発表される.

  • 日本看護研究学会雑誌にて「臨床での研究成果活用に関する要因分析」(清村ら, 2004)が発表された.(なおこの論文では、「研究を行うこと」と「研究成果を活用すること」の両方の考え方を同時に扱っている.)


2005年


2006-2008年
  • 医療情報学・看護情報学の観点での学会発表がみられるようになる.例えば、医療情報学会のワークショップにてACE Star Model of Knowledge TranslationのWebsiteの紹介(山内, 2006)、看護情報学とEBNの接点として、大学院教育において「研究を行う」ことではなく、「情報を活用する」という観点での発表(石垣ら, 2006).
  • 学会発表で、看護教育に関する文脈のテーマがみられるようになる(村上ら, 2007; 片平ら, 2007; 片平ら, 2008; 松嶋ら, 2008).
  • 日本看護研究学会にて、看護管理者等を対象とした研究で、情報源などやバリアスケールを用いた定量的なアンケート調査の結果が報告される(遠藤ら, 2008; 浅沼ら, 2008).


2009年
  • 専門看護師の活動に関連した取り組みで、"Translational research"という用語を含んだ論文が発表される(内ら, 2009; 濱田ら, 2009).


2010-2012年
  • 雑誌で「焦点 EBPを根づかせていくための概念モデルと方略」という特集が組まれ、実装戦略モデル/IOWA model、translational research modelが紹介される.(松岡, 2010a松岡, 2010b; Cullen L, 2010)
  • 亀岡ら(2010)が「研究成果活用力自己評価尺度-臨床看護師用-」について学会発表し、その後、2012年に論文として発表される(亀岡ら, 2012).


2013年


2014年
  • 「看護技術のイノベーションの普及 日本における褥瘡ケアの普及過程から」(佐々木, 2014)が発表される.褥瘡ケアの普及に関する文献レビューとその他のデータを組み合わせた論文.
  • 「診療ガイドラインをウェブ上に提供するMindsサイトにおける課題と解決策」(佐藤ら, 2014)が報告され、Mindsの利用状況等のアンケート結果について紹介されている.


2016年
  • 「看護技術の実態調査 清潔ケア、感染予防、周術期ケアに関する分析」(加藤木ら, 2016)が発表される.実際に行われている看護技術に関する調査結果に対し、それらを行う根拠となる研究の動向などをふまえた考察が述べられている.


References.

  • Holzemer WL.  Issues and possibilities of evaluation research for nursing. 6. Research utilization: will it change practice? 看護研究. 1989;22(1), 26–28.

  • 望月美和代. 臨床看護実践における研究成果活用に関する研究-研究成果活用と看護婦の特性に焦点をあてて-.看護教育学研究. 1996;5(2):13-15.  https://doi.org/10.19015/jasne.5.2_13

  • 舟島なをみ, 望月美知代. 看護実践における研究成果活用の現状と課題. Quality Nursing. 2000;6(6):8−15.
  • 野本 百合子. 看護実践場面における看護師の研究成果活用経験に関する研究. 看護教育学研究. 2003a;12(2):12-13. https://doi.org/10.19015/jasne.12.2_12
  • 野本 百合子. 研究成果を活用できる看護職者の育成 看護基礎教育における「看護学研究」の教育.  看護教育学研究. 2003b;12(2):16-17. https://doi.org/10.19015/jasne.12.2_16
  • 野本 百合子, 舟島 なをみ, 定廣 和香子.  看護実践場面における研究成果活用の概念化 病院に就業する看護師の経験を通して. 看護教育学研究. 2004;13(1):23-36.  https://doi.org/10.19015/jasne.13.1_23

  • 清村 紀子, 西阪 和子.日本語版BARRIERS Scaleの信頼性・妥当性に関する検討(第1報).日本看護研究学会雑誌. 2003;26(5):101-121. https://doi.org/10.15065/jjsnr.20030908007

  • 清村 紀子, 西阪 和子. 臨床での研究成果活用に関する要因分析.  日本看護研究学会雑誌. 2004;27(1):59-72. https://doi.org/10.15065/jjsnr.20031128003

  • 尾形直美, 他. 総合病院看護職員における研究成果活用の実態調査. 第32回日本看護学会論文集(看護管理). 2004;27(1):59-72. https://cir.nii.ac.jp/crid/1523951030985174912

  • 秋庭 由佳, 木村 恵美子, 福井 幸子, 他.  看護技術におけるイノベーションの普及に関する研究 (第4報) 根拠に基づくイノベーティブ看護技術の採用度と個人特性との関連. 青森県立保健大学雑誌. 2005;6(3):331-339. https://cir.nii.ac.jp/crid/1390572174586769536

  • 坂江 千寿子, 秋庭 由佳, 上泉 和子, 他.  看護技術におけるイノベーションの普及に関する研究(第5報) 根拠に基づくイノベーティブ看護技術の採用度と組織特性との関連.  青森県立保健大学雑誌. 2005;6(3):341-348. https://cir.nii.ac.jp/crid/1390572174586771456

  • 佐藤 真由美, 坂江 千寿子, 上泉 和子, 他.  看護技術におけるイノベーションの普及に関する研究(第6報) 根拠に基づくイノベーティブ看護技術の採用度と革新性との関連. 青森県立保健大学雑誌. 2005;6(3):391-400.  https://cir.nii.ac.jp/crid/1390290699610012288

  • 山内 一史. Evidenced Based Practice(EBP)普及のための看護向けアカデミックWebサイト構築に向けて 看護情報学教育の立場から(学部学生および臨床看護師を対象として).  医療情報学連合大会論文集. 2006;26:155-156.

  • 石垣 恭子, 高見 美樹, 古屋 肇子, 他.  EBMと医療情報教育 EBNと看護情報教育.  医療情報学連合大会論文集. 2006;26:157-158.

  • 村上 明美, 白水 真理子, 間瀬 由紀, 他.  総合実習におけるEBNの導入(その1) 教員の働きかけ.  日本看護学教育学会誌.  2007;17:184.

  • 片平 伸子, 渡部 月子, 北岡 英子, 他.総合実習におけるEBNの導入(その2) 学生の変化.

    日本看護学教育学会誌. 2007;17:167.

  • 遠藤 良仁, 布施 淳子. 看護管理者は臨床実践における研究成果活用の阻害因子をどのように認識しているか. 日本看護研究学会雑誌. 2008;31(3):193. https://doi.org/10.15065/jjsnr.20080721174

  • 浅沼 優子, 遠藤 良仁, 山内 一史, 伊藤 收. 病棟看護管理者のEBP(Evidence-Based Practice)実践の認識と研究成果の収集に関する調査.  日本看護研究学会雑誌. 2008;31(3):146.  https://doi.org/10.15065/jjsnr.20080721096

  • 片平伸子, 小山眞理子, 竹内淳. 看護学士課程における「エビデンスをさがす」演習での学生の学び.神奈川県立保健福祉大学誌. 2008;5(1):37-44.

  • 松嶋弥生, 村上明美, 杵淵恵美子, 他.リプロダクティブヘルスケア実習における看護学生のEBNへの取り組み.  日本看護学教育学会誌. 2008;18:172.

  • 内正子, 三宅玉恵, 三宅一代, 他.【translational researchとしての小児の疼痛緩和方法の開発】研究成果を実践に根付かせるためのCNSを活用した臨床-研究連携システムの構築. 看護研究. 2009;42(6):459-469. https://cir.nii.ac.jp/crid/1521699230714251264

  • 濱田米紀,有田直子,笹木忍, 他. 【translational researchとしての小児の疼痛緩和方法の開発】小児の痛み緩和ケアツール導入過程におけるCNSの技術と役割の明確化. 看護研究. 2009;42(6):445-457. https://cir.nii.ac.jp/crid/1522262180677489920

  • 遠藤 良仁, 浅沼 優子, 山内 一史, 他. 病棟看護管理者における科学的根拠の情報収集の実態および研究成果活用の阻害要因に関する認識との関連. 岩手県立大学看護学部紀要. 2009;11:1-12. http://id.nii.ac.jp/1318/00001766/

  • 松岡千代. 焦点 EBPを根づかせていくための概念モデルと方略 EBP(evidence-based practice)の概念とその実行(implementation)に向けた方略. 看護研究. 2010a;43(3):178-191. https://doi.org/10.11477/mf.1681100437 

  • 松岡 千代 . 焦点 EBPを根づかせていくための概念モデルと方略(I)―〈概念・研究編〉EBPの概念とその実行に向けた方略 EBP実行を促進するためのTRIP介入モデル―組織的介入モデルとしての概要とその効果. 看護研究. 2010b;43(3):193-202.  https://doi.org/10.11477/mf.1681100438

  • Cullen L. 焦点 EBPを根づかせていくための概念モデルと方略(II)─〈環境整備・実践編〉Strategies for Nursing Leaders to Promote Evidence-Based Practice. 看護研究. 2010;43(3):251-259. https://doi.org/10.11477/mf.1681100444

  • 佐々木 杏子. 看護技術のイノベーションの普及 日本における褥瘡ケアの普及過程から. 日本看護技術学会誌. 2014;12(3):4-13. https://doi.org/10.18892/jsnas.12.3_4

  • 亀岡智美,野本百合子,中山登志子.「研究成果活用力自己評価尺度-臨床看護師用-」の開発 信頼性・妥当性の検証.看護教育学研究. 2010;19(2):8-9. https://doi.org/10.19015/jasne.19.2_8

  • 亀岡智美,舟島なをみ, 野本百合子, 他.「研究成果活用力自己評価尺度 臨床看護師用」の開発. 日本看護科学会誌. 2012;32(4):12-21. https://doi.org/10.5630/jans.32.4_12

  • Watanabe Y, Oe M, Takemura Y, et al. Four factor research awareness scale for nurses in Japanese: instrument development study. Japan journal of nursing science. 2013;10(2):232-41. https://doi.org/10.1111/jjns.12009

  • 佐藤 康仁, 畠山 洋輔, 奥村 晃子, 他. 診療ガイドラインをウェブ上に提供するMindsサイトにおける課題と解決策. 医療情報学. 2014;34(1):53-43.  https://doi.org/10.14948/jami.34.35

  • 加藤木 真史, 菱沼 典子, 佐居 由美, 他. 看護技術の実態調査 清潔ケア、感染予防、周術期ケアに関する分析.  日本看護技術学会誌. 2016;15(2):146-153.  https://doi.org/10.18892/jsnas.15.2_146


※この記事は、科研(JSPS-JP-16H07464, 18K17452)の一環で行った文献レビューで得た知見をもとに作成しています.


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