研究成果の活用 | Research Utilization: An Overview (1994)

EBM/EBPという用語が登場する前にも看護分野でも「研究で得られた知見を実践に活用する」という考え方はすでに提言されており、それは”Research Utilization” (研究成果の活用)という用語が用いられていました.

EBMが提言された1990年代の記事(Gennaro, 1994) "Research utilization: an overview" では、現在(本記事執筆:2023/8/28時点)の看護にもそのまま通じるであろう看護実践と研究のエビデンスの接点について、以下のような内容が綴られています.


  • できうる限りの最善のケアを提供するために、看護実践には研究が必要で、専門職の成長にも重要
  • その一方で、情報の流通も増えて、日々新しい情報が出てくるので、全てを常に追いかけ続けるというのは実際問題として大変.
  • 高度で複雑な研究が行われるようになると、その研究の知見が”いつ”実践に活用できる準備が整った状態にあるといえるのか、判断が困難な場合も


  • 全ての看護師が、研究の知見を実践に取り入れることについて、関心があるわけではない
  • だれしもが、他の人が実践する、権威のある人の実践に基づいてケアを行ったことがあると思うが、仮に称賛されている専門家であっても、その方法が最も効果的なケアであるとはいえない.
  • 看護師個人の過去の経験に基づいて”良い”と考えるケアであっても、それはその個人の経験に限定される.


  • Research utilizationは、研究の知見を臨床に移す(knowledge translation)のプロセスで、必ずしも実践することだけを意味するのではなく、教育で活用したり、臨床の状況について理解を深めることも含まれる.
  • 研究の知見に基づいて実践を変えるプロセスは、通常は、慣習を見直し、それを変更する必要があるかどうかの検証も含まれる.その範囲は、看護師個人が何かを変えればよいだけのこともあれば、手順書の作成や更新も含まれる.そして、その結果、期待通りに実施されているか、期待される結果が得られているかを検証し評価することが必要.


  • ただし臨床疑問の全てに対して、研究による回答が必要なわけではなく、迅速に対応しなければならないもの、科学的な厳密性を必要としないもの、問題解決能力があれば十分なものもある
  • また "what “should” or “ought” to be done" といった哲学的な見解を示すものではない
  • 全ての研究が実用化できるとも限らないので、研究の知見のどれを臨床実践に移行するのかを決める
    • How alike are the study samples to the patients for whom I care?
    • Would implementing the changes the research suggests improve the care I give to my patients?

    • Do the findings and conclusions of this research make sense to me?


  • 「Research」と「Research Utilization」はしばしば混同されるので注意
    • Research:一般化可能な知識を創出すること
    • Research Utilization:研究の知見を実際の臨床に移すこと


以上は、本文の一部ですが、他にも、次のようなトピックについて述べられています.

  • Reserach Utilizationを促進する組織力
  • Research Utilizationは実際にはどの程度普及しているのか
  • Research Utilizationのファシリテーター
  • Research Utilizationの支援
  • Reserach Utilizationを阻害するもの


本サイト管理人の意訳を含みますので、ぜひ本文とともにお読みいただければと思いますが、皆さまいかがでしょうか.もうこのフェーズはとっくに通り越しているという分野もあれば、まだまだと課題を感じる分野もあるかもしれません.

Research UtilizationからEBM/EBP、Dissemination & Implementation へと、研究の知見を実践に統合していく研究の方法論は進化し、最先端の知見が増える一方で、約30年経ってもこの文章がそのまま色褪せないとしたら、やはりそこにはまだ普及の課題が残っているということです.

「できうる限りの最善のケア」を構成する要素の1つとして、研究の知見が実践と確実にリンクしていくように、生涯教育として、EBM/EBPが根付くことが期待されます.


なおResearch Utilizationに関する代表的な研究例としては、1991年にFunkらが発表したthe Barriers scale を用いた調査があります.日本でもBarriers scaleの日本語訳を用いた論文が発表されています.他にも、日本でオリジナルで作成された研究成果の活用に関する尺度もあります(亀岡ら, 2012).

当サイトでは、記事のTagsに「Barriers scale」をつけているものは、この尺度に関する論文などを紹介している記事になります.サイト右のサイドバーからもアクセスできます.ご関心のある方はぜひアクセスしてみてください.


Reference.
  • Gennaro S. Research utilization: an overview. J Obstet Gynecol Neonatal Nurs. 1994;23(4):313-9. doi: 10.1111/j.1552-6909.1994.tb01882.x.
  • Funk SG, et al. BARRIERS: the barriers to research utilization scale. Appl Nurs Res. 1991; 4(1): 39–45. https://doi.org/10.1016/S0897-1897(05)80052-7
  • 亀岡 智美, 他.「研究成果活用力自己評価尺度―臨床看護師用―」の開発. 日本看護科学会誌. 2012;32(4):12-21.  https://doi.org/10.5630/jans.32.4_12

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