EBPに対する阻害要因は、すでに多くの調査によって明らかとなっていますが、欧米からの報告が多く、アジア圏での現状はよくわかっていません.そのような中、Fu Yら(2020)は、中国でEBN Projectに参加した看護師を対象としたインタビューの結果を報告しました.
・対象:中国でEvidence-based nursing implementation projectsが行われた16病院の看護師 (対象者45人のうちPh.Dが12人、Master 20人、Bachelor13人)
・方法:半構造化面接、電話 or WeChatによるインタビュー、分析方法はcontent analysis
・結果:5つのテーマ(Evidence, Nurses, Patients, Setting, Support)と11のサブテーマが抽出された
EBPで用いられるリサーチエビデンスも欧米の研究が多いため、もしエビデンスを実装する過程で文化的な違いが影響することも多くあります.そのような場合は、Fu Yらの研究のように、その国の文化や臨床の文脈を定性的に明らかにすることは、EBPの阻害要因を取り除くうえで重要な示唆を与えてくれます.
Fu Yらの研究で明らかになった各テーマについて、本文で紹介された内容をいくつか要約して紹介します.
"Nurses"
テキストを読んでいるときに具体的に統計の用語がわからなかった、EBNの理解が誤っていたことに気付いた.また、中国の看護師不足と日頃からオーバーワークで、EBN Projectを進めるには業務時間外の時間が必要であること、さらに業務量が増える.
"Setting"
EBN Projectとして臨床にエビデンスを実装できたとしても、プロジェクトが終わるとそのあと何も残らない、といった課題もある.
"Support"
中国は職種間のヒエラルキーが強く、多職種連携の中でエビデンスを実装する際に、とくに医師・看護師関係をふまえたアプローチが必要.
看護師のEBPに関する研究はほとんど報告されていませんが、いずれの観点も、日本の臨床でも思い浮かぶことが多のではないでしょうか.例えばEBPなど何か新しいことに取り組もうとするときは、専従ポジションやそのための業務が認められなければ、業務外業務にならざるを得ないこともしばしばあります.
また、わかりやすい例だと、院内看護研究についても同様ではないでしょうか.(必ずしもEBPと同じ活動を意味するものではありませんが、例として取り上げました).
論文では医師・看護師間のヒエラルキーのことが繰り返し述べられており、日本での多職種間の関係性はもう少し違うかもしれませんが、このように、EBPの阻害要因の中にもその国の文化が反映されることがよくわかります.
日本ではEBPに関する質的研究もほとんど行われてませんが、今後EBPやエビデンスの普及・実装を進めていくうえでは、今回紹介したような質的研究の知見も非常に重要となるでしょう.
Reference.
Fu Y, et al. The barriers to evidence‐based nursing implementation in mainland China: A qualitative content analysis. Nurs Health Sci. 2020 Dec;22(4):1038-1046. doi: 10.1111/nhs.12763.
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