日本の診療ガイドラインの質 (2021.7)

科学的根拠に基づく臨床ガイドライン(Clinical Practice Guideline, 以下CPG)は、Evidence-based Practice(EBP)の"evidence"を支える重要なリソースの1つです.科学的根拠に基づくCPGは、その質を保証するために、事前に定められた一定の方法に則って作成・改訂作業が進められますが、実際に発表されたCPGの質評価は十分ではありません.

そのような中、2018-2019年に発表された日本のCPGの質を評価する研究結果が、報告されました (Kataoka Y, et al., 2021).CPGの質評価ではAGREEⅡ (Brouwers MC, et al., 2010)の日本語版が使用され、報告の質はHealThcare (RIGHT) statementによるCPGの報告項目を使用して評価されています.

この研究からは、次のようなことが明らかとなりました.

・2019-2019年に、30の医学会から発表されたGCPを対象とし、系統的レビューをベースした53のCPG(SR-GCP)が対象となった
・系統的レビューに基づかないCPGも21あった

・AGREEⅡを用いた評価では、今回レビューの対象となったGCPの質は高いとはいえなかった

・GCPの質は、とくにガイドラインの作成方法で、GRADEもしくはMinds 2014以降を使用しているかどうかと関連があった


日本の看護分野でも様々なガイドラインが発表されていますが、今回の研究でも主な評価の対象となった「系統的レビューに基づくガイドライン」の開発は、まだ発展途上です.


なお今回の論文では、系統的レビューに基づくCPG (n=53)と系統的レビューに基づかないCPG(n=21)別で、CPGの特徴の集計結果がまとめられています(本文Table 1参照).フリーアクセスかどうか、タイトルに"clinical practice guidelines"に相当するものが入っているか、Mindsに掲載されているかなどにも違いがみられています.


GCPの作成には大変な労力がかかり、さらに、日々更新されるエビデンスを定期的に反映する作業も求められますが、より信頼できる情報に基づいた実践の普及には、こういった活動が第一歩になると考えられます.今後は看護分野でも、こういったガイドラインの分析も必要となるのではないでしょうか.



参考

日本ではMindsガイドラインライブラリで、「システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」が掲載されていますが、CPGの作成マニュアルの公開や作成支援も行われています.https://minds.jcqhc.or.jp/s/developer_manual

*Mindsでは、GRADEアプローチの普及を目指して Minds Tokyo GRADE Center が設立されています.



Reference.

・Kataoka Y, et al. Quality of clinical practice guidelines in Japan remains low: a cross-sectional meta-epidemiological study. J Clin Epidemiol. 2021:S0895-4356(21)00203-1. doi: 10.1016/j.jclinepi.2021.06.025. 

・Brouwers MC, et al. AGREE II: advancing guideline development, reporting and evaluation in health care. CMAJ. 2010;182(18):E839-42. doi: 10.1503/cmaj.090449. 

・日本医療機能評価機構EBM医療情報部. AGREE II 日本語訳. 2016 https://minds4.jcqhc.or.jp/minds/guideline/pdf/AGREE2jpn.pdf

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